日本人ゲイのAkiです。
ベトナム人彼氏のTuは、バングラデシュで2年間働きました。
Tuが勤務する会社のプロジェクトの仕事に従事するためです。
当時勤務していたのはベトナムの企業なのですが、海外案件に積極的に取り組んでいて、Tuは入社してすぐカンボジア駐在となり、次いでバングラデシュで働くことになりました。
カンボジアはベトナムの隣の国なのでまだよかったのですが、バングラデシュは東南アジアというよりも南アジアの東の国と言った方がよく、インド、ミャンマーに挟まれた小さな国なのです、しかし人口は1億6000万人。
狭い国土にイスラム教を信仰する人たちがひしめきあっているのです。
そんなところにAkiの彼氏は行ったのです。
Tuが携わったプロジェクトはバングラデシュの国営会社のシステムに関するものでした。バングラデシュ人の顧客への対応が主な仕事で、総勢20名ほどのベトナム人がそのプロジェクトに従事していたそうです。
その20人がリーダーも含めて共同生活をバングラデシュで送っていました。
大きなアパートを借り上げ、その何部屋かを男女で分け、数人が枕を並べて寝て、食事は一週間分を市場で買ってきて、自分たちで当番を決めて、かわるがわる作って食べていました。そしてドライバー付きのワゴン車を借り、毎日、全員が一緒に通勤していました。
日本人からするとプライバシーもなく厳しい生活のように思えるのですが、案外、Tuは楽しく過ごしていたと思います。これがベトナム人にとって普通のことなのでしょう。海外勤務になると食費も含めた生活費は会社が支給してくれて、ほとんどお金を使うことはなかったようです。海外勤務になるとお金が貯まる、とTuが言ってました。
しかし、バングラデシュはイスラム教の国なのでアルコールは飲めません。
ビールくらいはあるようなのですがものすごく高い。
なのでTuはベトナムに帰るたびに1ダースの缶ビールを買ってバングラデシュに持ち込んでいました。タイでも、Akiとデートしたあとコンビニで大量のビールを買い込んでいました。おそらく、バングラデシュにいるプロジェクトのメンバーへのお土産なのでしょう。
あと、Tuがよくこぼしていたのは、バングラカレーです。
”ものすごく辛い、まずい!”
最初はもの珍しさから市内のレストランへ行って食べたらしいのですが、そのあとは行かなくなりました。
AkiはTuに言いました、
Tu、カレーは日本だとみんなが好きな料理だよ、子供たちは大好きなんだけど
”日本のカレーはたぶんおいしいと思うけど、バングラカレーは最悪”
Tuは二度と食べませんでした。ハノイのベトナム料理は淡泊で味付けも薄いです。
野菜も多く健康的な料理なのです。それとは対照的にバングラデシュのカレーは辛くて、Tuの味覚とはあわなかったようです。
基本、Tuは文句も言わずになんでも食べる人なのですが。
確かに海外駐在になるとつらいのが食事です。
Akiの会社でも、海外勤務になることは多いのですが、なにが一番つらいかというと仕事の内容ではなく、食事だそうです。その点、ベトナム人は集団生活をして、食事も自炊なので毎日、故国の料理を食べることができます。
Akiはこれはベトナム人の強みだなと思います。
今の日本人だと、この20人での集団生活はできないでしょう。
AkiがTuに聞きました、
だけど、Tu、20人の男女が2年も集団生活して問題おきないの?
”問題ないよ、だけどときどき恋愛しちゃって、結婚とかあるみたい”
やっぱりね、そのプロジェクトの中にはゲイはいないの?
”知らない、たぶん僕だけだと思う”
そりゃそうですね、カミングアウトしていないのだからわからない
Akiも変な質問をしたものです。
たぶん、Akiは彼氏が浮気しないか心配したんでしょうね(笑)。
信じてます。
Tuのバングラデシュの滞在は2年に及びました。
しかし、結局、Akiはバングラへは行きませんでした。集団生活をしているTuに迷惑をかけたくなかったし、Tuも来ない方がいいよと言ったからです。おそらく雑然としたカオスのようなダッカは日本人には無理だと思ったのでしょう。TuとAkiは同じ文化圏の人間なので、そこそこ共有、共感できるものがあります。違いもあるのですが。
しかし、バングラデシュとなるとイスラム圏なので文化的にはまったく異なってしまいます。
ただ、Tuと一緒にバングラを旅していれば、逆に、我々が同じ文化圏の人間であることを深く認識でき、関係をより深めることができたかもしれません。
そこが少し心残りです。
いずれにしろ、Tuはバングラ勤務を終え、ベトナムに帰ってきました。
Akiはとりあえずそのことにほっとしたのでした。
バングラデシュのこと(終わり)