大国中国が厳然と存在し続けてきた東アジアについて、
ずっと興味を持ち続けてきたのですが、
その『東アジアの構図』について、
ある側面から理解できる、
あるいは腑に落ちる本を読みました。
『中国、朝鮮、ベトナム、日本――極東アジアの地政学』
2021/6/25 川島 博之 (著)
その読後感想です。
この本では、東アジアではなく、極東アジアとして、中国、朝鮮、日本、ベトナムを論じています。
日本が、ほかの3国をどう理解すべきか、という趣旨です。
まず、中国。
とりあえず、抜粋します。
・・・
中国人の心の奥底を理解するには、宋から本格化した官僚の採用試験の「科挙」と、その試験問題になった「朱子学」を理解する必要がある。
広い中国では、封建制では地方をうまくコントロールできない。秦の始皇帝以来の1000年の歴史は、広い中国では封建制が機能しないことを証明していた。
宋は、地方に功臣を封じる代わりに、皇帝の言うことをよく聞く官僚を派遣することにした。
そして、
内乱を恐れて外の敵を軽視する、それが中国の「この国の形」になった。
中国人のトラウマとして、靖康の変という事件があった。
「靖康の変」
靖康の変とは、1126年に漢民族である北宋が異民族(女真族)である金に敗れて華北を失った事件。靖康は当時の宋の年号。金軍が北宋の首都開封を陥落させ、徽宗・欽宗以下三千余人を捕虜とし北帰した。この事件で宋室の皇女たち(4歳から28歳)全員が連行され、金の皇帝・皇族・将兵らの妻妾にされるか、官設妓楼 「 洗衣院 」に入れられて 娼婦となり、この上のない屈辱を受けました。
「岳飛(がくひ)と秦檜(しんかい)」
岳飛と秦檜は、南宋時代に活躍した武将と宰相で、金との戦争において対立する立場にありました。岳飛は金に対して抗戦を主張し、多くの軍功を挙げましたが、秦檜は金との講和を進め、岳飛を謀殺しました。岳飛は救国の英雄として称えられ、秦檜は売国奴として蔑まれました。
岳飛は1103年に生まれ、21歳のときに義勇軍に参加しました。1134年には節度使に任命され、金軍との戦いで勝利を重ねました。1140年には開封まで迫りましたが、秦檜の献策により撤退命令を受けました。1142年には秦檜により反逆罪で処刑されました。
秦檜は1091年に生まれ、1122年に科挙に合格しました。1127年に金に捕らえられましたが、1130年に解放されて南宋の高宗に仕えました。1131年には宰相になり、金との交渉を担当しました。1141年には岳飛や他の主戦派を粛清し、金に国土を割譲する屈辱的な和議を結びました。1155年に死去しましたが、その後の歴史において姦臣として酷評されました。
この秦檜です
が、当時は金との戦いのメドも立たず、必敗の様相で、講和をするしかない状況で、無謀な主戦派を抑えて、金との講和を結び、平和をもたらしたというのが真相のようです。しかしながら、異民族と妥協し、講和を結んだ秦檜は、「漢奸」、として憎まれ続けたとうことです。
※漢奸とは:漢民族の裏切者や背叛者のことを表す。現代中国社会では、中華民族の中で外国の侵略者に協力する者を指している。漢奸は中国の歴史において、民族の敵として最も嫌われる存在。
この物語が、漢民族である中国人のトラウマとなっており、いまだに異民族との妥協を嫌う。
また、前述の朱子学・・・
武人は直接命に関わる仕事をしているので、物事の是非をリアリティーに基づいて判断する。しかし。朱子学を学んだ秀才官僚は、何事につけも屁理屈をこね回す。そんな科挙官僚が力を持った中国では、外国と妥協すると攻撃されることになる。
遊牧民である蛮族は約束を守る。反対に漢民族は約束を守らない。漢民族は、蛮族を対等に扱うことがなく、その約束も守らなくても良い、と思っている。
広い領土に強い王権の出現した中国の政治哲学は「絶対的」である。
皇帝は一人しかいない。そこでは「互恵平等」「内政不干渉」「話し合い」は必要とされない。科挙官僚が皇帝の代理人として絶対的な権力を持って地方を支配する。
・・・
以上が、自分が思うこの本のポイントです。
中国の歴史を論じているのですが、今の中国と言う国の形がよくわかります。
中国には外交はなく、国内統治があるのみ。
外国は異民族(日本も含めて)であり、軽視の対象、約束を守る必要すらない。
また、当然、妥協もしない。
妥協をすると秦檜呼ばわりされ、漢奸となり果てる。
したがって、漢奸と言われないためには何でもする。
また、共産党が支配する現在の中国でも皇帝(総書記)は一人で絶対的。
そして、いわゆる西側の価値観とは真逆。
例えば、中国外務省の報道官の話し方、
常に上から目線で、高圧的で、一切の妥協を許さないという姿勢ですよね。
中国では、こうしなければならない。
また、尖閣諸島への中国船の執拗な侵入。
侵入を続けないと、異民族(日本)に対して妥協していると思われてしまうから。
あるいは、南シナ海での横暴な振舞い。
横暴を続けないと、異民族に対して妥協していると思われてしまうから。
そんな行動様式が、中国人のDNAに組み込まれている、ということですね。
しかし、彼らにとっては常識的で、気持ちのいい行動であっても、それはどこかで破綻するのだと思います。
蛮族である異民族からの反発があるからです。
そして、王朝(今では中国共産党)が倒れてゆく。
中国は、そんな国ということですね。
かなり、腑に落ちました。
東アジアの構図①(終わり)